M&A Column

会社の売却を考えたら? 知っておくべき4つのプロセス

将来への不安は、中小企業の経営者がつねに頭を抱える問題だ。
もっと事業を成長させたいが資金が足りない、事業を継承できる後継者がいない、時代とともにマーケットが変化していて今後の経営に不安を感じている、などその理由はさまざまだ。

そんな経営者の悩みや不安を断ち切る手段のひとつが、M&Aである。では実際に、「会社を売却しよう」とを思い立ったら、なにから始めればよいのか。以下では、大きく4つのプロセスに分けて紹介する。

1. 売却の目的を考える

なぜ売却を思い立ったのか。「事業の成長スピードを加速させたい」「事業の運営を絶やしたくない」「従業員の雇用を維持したい」など売却の本質を考えることから始めよう。M&Aを進める上で、「目的」が達成されなければ売却の意味はない。

同時に、売却で譲れないポイントを考えておくことも重要だ。具体的には、売却金額、会社名(商号)の存続、従業員の処遇などを事前にまとめておくと、買い手との交渉時に明確に伝えることができる。

2. 専門家の選定

ファッション業界で実際に行われたM&Aでは、元商社出身である業界の重鎮に縁を繋げてもらったというケースをよく耳にするが、一般的な流れでは、業界に詳しいM&Aアドバイザーに相談することをおすすめする。

費用は成果報酬となることが一般的で、株式譲渡や吸収合併が成立した売却金額の5%が相場であると言われている。相談に費用が掛かることはない(一部の仲介業者では着手金が掛かる場合がある)。専門家と契約を結ぶことは必須ではないが、売却先の選定などさまざまなサポートを受けることができるので、売却が初めてのケースであれば、活用してみるのもよいだろう。

3. 売却先企業の選定

次に行うのが、売却先候補企業の選定だ。ターゲットとなりうる企業をリスト化し、候補先の絞り込みを行っていく。売却側の希望条件をベースにしつつ、候補企業の意向を確認するといった流れで、買い手の特定を進めていく。その際の留意点は、M&Aは機密情報を扱うため、外部への情報漏洩に細心の注意を払うこと、アドバイザー、売り手、買い手候補など秘密保持誓約書を交わすことは必須だ。

4. 金額提示とデューデリジェンス

正式な買収の意思表示として、買い手側より買収意向表明書を受け取る。意向表明書には目的、希望金額、取得方法、役員・従業員の処遇、資金調達の方法などが記載されており、内容に基づき買い手の選定を行っていく。

選定後は、売り手企業の財務、税務、法務などの調査をするデューデリジェンスのプロセスへ。売り手側が情報を開示して、会社に問題がないか、評価金額に値するかなど調査を行い、残業の未払いがあった、隠れ負債があったなど会社に問題があった場合は、買収金額が減額される場合や、最悪話しが消滅することもある。

5. 最終的な条件の交渉・合意

クロージングに向けての条件交渉は、契約書に記載する価格、保証、誓約など細かな合意条件を決定する重要なプロセスだ。後々のトラブルを避けるためにも、弁護士などの専門家のアドバイスを受けることをおすすめする。契約書の作成が完了し、双方が内容に合意して売却契約を締結すれば、売却が完了となる。

M&Aでは、予め設定した売却の目的を達成することが重要だ。売却が決まるまで、数か月、または1年以上の時間を費やすこともあり、通常業務に加えて売却に向けた経営者の業務負担も大きくなる。いざ売却を考えたときのために、一連の流れや、プロセスを円滑に進める相談ができる外部の専門家がいることを知っておくとよいだろう。

Takashi IKEMATSU

アメリカ留学時代,古着屋のディーラーを経験。 国内の紹介会社を経て、2008年にエーバルーンコンサルティングを設立。 主にエグゼクティブのサーチやM&A案件を担当。

会社をいくらで売りたいですか? 企業価値の算出方法

2016年8月9日、ストライプインターナショナルが全国にレディースアパレル店舗を展開する中堅アパレルのアルファベットパステルを買収すると発表した。売上1000億円を超える新興アパレル大手と中堅アパレルとのM&Aに注目が集まっており、アルファベットパステルをさらなる成長へと導くストライプインターナショナルの手腕が期待されている。

このニュースを見てふと気になったのが、アルファベットパステルの評価金額はいくらだったのか?ということだ(売却金額は不明となっている)。

会社の価値はいったいどのように算定されるのか?
自分の会社の価値はどれくらいあるのか?

これらをひも解くために、バリュエーションと呼ばれる企業や事業の価値を算出する方法を紹介しよう。

あなたの会社を一体いくらで売りたいですか?

買い手は売り手の希望金額をベースにM&Aを検討するため、経営者であればまず「いくらで会社を売りたいか」という希望金額を決める必要がある。もし、この希望金額が結果的に買い手と合致すれば、あなたが設定した希望金額のバリュエーションは正解となる。設定した希望金額が低ければ損をするし、高すぎる場合は誰からも相手にされないので、適切な価格設定をすることが重要なポイントとなる。

適切な価格設定とは?

企業価値の算定方法は専門書でもいくつか紹介されているが、中小企業で一般的によく利用されるのが時価純資産にのれん代を加えて計算する方法だ。

価格=時価純資産+のれん代(実質経常利益×3)

時価純資産:
貸借対照表に計上されている資産・負債を時価に直した際の差額のこと。。
*時価評価をする際、売掛債権の回収不能分、商品の不良在庫、固定資産の時価評価などを判断し計上すること。

のれん代:
計算方法はいくつかあるが、営業利益または経常利益の3年程度で算出されることが多い。
*のれん代は節税対策の経営者親族の役員報酬や保険料など事業と関係のない経費を足し戻すなど、合理的な実質経常利益を計算することが重要。そして、業種、業態、企業の状態によって3年分、5年分にするなどが判断される。

次に、
ファッション業界での売却事例とその評価金額を紹介する。

・2015年 マークスタイラー→中国系投資ファンドCITICキャピタル・パートナーズ 60~80億円程度
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ30HJ1_Q5A430C1TJ2000/
・2015年 バーニーズジャパン→セブン&アイホールディングズ 60億円程度
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ09ITT_Z00C15A2MM8000/
・2013年 キャン→クロスカンパニー(現ストライプインターナショナル) 約100億円 http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD110JX_R10C13A1TJ1000/
・2008年 ジルサンダー→オンワードホールディングス 約264億円 http://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-33537420080901

近年は、ファッション系ECの売却事例が多く、高い評価金額を得ている。

・2015年 ミューズコー → ミクシィ 17億円
http://mixi.co.jp/press/2015/0219/16093/
・2015年 waja → リブセンス 約4億円
http://japan.cnet.com/news/business/35062280/
・2012年 セレクトスクエア → 高島屋 約3億円
http://www.sankeibiz.jp/business/news/120626/bsd1206260504003-n1.htm
・2011年 ファッションウォーカー → ワールド 11億円http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD300FR_Q1A930C1TJ1000/

評価目的に沿った評価方法を選ぶ

企業を評価する方法は、上記の時価純資産で算出する以外にも、買収対象企業と類似したビジネスモデルや規模から算出する「類似上場会社比較法」や、評価対象企業の将来の期待される利益やキャッシュ・フローに基づいて価値を評価する「DCF法」、もしくはすべての方法を駆使して算出する方法などがある。それぞれの算出方法には特徴があり、評価目的に沿った適切な価値算出が行われる。

企業評価のものさしのひとつとして、金額として算出される企業価値にぜひ興味をもってみてみてはどうだろうか。

Takashi IKEMATSU

アメリカ留学時代,古着屋のディーラーを経験。 国内の紹介会社を経て、2008年にエーバルーンコンサルティングを設立。 主にエグゼクティブのサーチやM&A案件を担当。