M&A Column

M&Aは究極の即戦力採用につながる

Marketing segmentation and leader

ファーストリテイリングは、自社のホームページでM&Aの目的を大きく2つ掲げている。
1つは、過去にセオリー、コントワ―・デ・コトニエ、J Brandsなどグローバルブランドを買収したように事業ポートフォリオを強化すること、
そしてもう1つは、海外や新しい市場でユニクロのビジネスのプラットフォームを獲得し、同時に優れた経営人材を獲得することだ。

M&Aは、シェアを拡大しノウハウを買うなど事業メリットが注目されがちだが、優秀な人材獲得につながる要素も持ち合わせている。優れた人材を獲得する方法は、中途採用やヘッドハンティングといった手法だけではないのだ。

去る人材、残る人材で処遇を決定

人材採用を目的としたM&Aを行ったケースでは、すべての従業員の雇用を保証する場合もあれば、去る者と残る者で処遇がわかれる場合もある。業務の合理化を理由に、合併時や合併作業後に去る人材、合併後も活躍を期待され残る人材などで処遇が決定されることになる。合併後の人材活用は組織の活性化にもつながるため、人材の処遇の決定はM&Aでとても重要なポイントとなる。

重要な社員の離職リスク対策

また、組織が変わって業務へのモチベーションが下がって転職したり、独立する絶好のタイミングとして捉えられたりなど、優秀な人材の流出を防ぐ対策も必要だ。
引き止めの方法として、リテンション・ボーナスと呼ばれる一定期間勤務するなどの要件を満たせば報酬を支給することで残留を促し、有能な人材の流出を防ぐ対策もある。

人材を確保する経営課題に向けたM&A

実際に、ファッション業界で優秀な人材を獲得したM&Aで、クロスカンパニー(現ストライプインターナショナル)が、宅配クリーニングのバスケットを買収した事例がある。

後日、株式会社ストライプインターナショナル代表取締役社長の石川康晴氏は対談で、「当時CTOの獲得に向けて動いていたが、ファッションとテクノロジーに強いバランスのとれた人材がおらず、ファッション好きなエンジニアを探していた。そこで目を向けたが、ファッションEC会社を立ち上げた経験があるバスケットの創業者の松村映子氏だった。バスケットを買収し、松村映子氏をCTOとして迎え入れたことでITの人材を管理・調達できる人材を獲得することができた」と語っている。(引用元:https://theflag.jp/article/80691

*石川 康晴氏
株式会社ストライプインターナショナル代表取締役社長
*松村 映子氏
バスケット株式会社 創業者 兼 代表取締役社長
株式会社ストライプインターナショナル取締役CTO 兼 Web&Technology本部本部長

M&Aは、事業を吸収合併するのみならず、事業を担う人材を採用する機会となる。重要な社員の引き止めや、活躍を促す環境を準備するなどの配慮が必要だが、企業としては成長分野での活躍が期待される中核人材を確保することができる。

究極の即戦力採用になるM&A戦略に、今後注目してみてはいかがだろうか。

Takashi IKEMATSU

アメリカ留学時代,古着屋のディーラーを経験。 国内の紹介会社を経て、2008年にエーバルーンコンサルティングを設立。 主にエグゼクティブのサーチやM&A案件を担当。

買収目的に合わせた2つのM&Aスタイル

Orchestra conductor on stage

最近、M&A取引が活発化している理由のひとつに、「企業が持っているノウハウを買いたい」といったニーズが増えていることがあげられる。すでに完成した事業を買った方が、ゼロから育てるよりも経営資源、時間的にも有効であると考えるからだ。

M&Aで起こる事業シナジーは、企業の事業戦略の目的によって大きく2種類にわけられる。昨今のファッション業界でみられるM&Aはどのような価値を創出しているのか、タイプ別に解説する。

シェア拡大を目的とする水平統合

ひとつめは、市場規模の拡大や規模経済の獲得を目的に、同じ業界の競争相手を買収してマーケットシェアを獲得する水平統合だ。時計を例にすると、リシュモングループ、LVMHグループ、スウォッチグループ、フォッシルグループなどがあるが、これらも水平統合によって時計メーカーが集まり構成されたグループである。

日本のシチズンも、アメリカのブローバ、スイスのプロサー、フレデリック・コンスタントといった時計メーカーを買収。それにより、事業領域の拡大、商品の原材料調達、マーケティング、販売ネットワークの優位性などにおいて業界での競争力を高め、さらなる向上を目指している。

日本のファッション業界のように成熟期にある業界では、マーケットでの競争力を合理的に高めるための事業戦略として水平統合が頻繁に採用されている。

ノウハウを買い事業を強化する垂直統合

垂直統合とは、流通の「川上」や「川下」へ攻めていくことを意味する(川上は糸から生地がつくられる段階まで原料を取引している商社など、川下は仕入れた洋服を小売りするブランドや専門店など)。近年では、繊維商社によるブランド買収が活発だ。

大阪に本社をもつ老舗の繊維専門商社ヤギは、「タトラス」を運営するリープスアンドバウンズ(現タトラスジャパン)、瀧定大阪は「OLIVE des OLIVE」や「スタンニングルアー」を買収している。主に事業の多角化を目的としているが、ゼロからブランドを新規で立ち上げるよりもリスクが少ないという判断だろう。

垂直統合の付加価値として、デザイン力などノウハウを内製化できるため、繊維商社が主力事業とするOEM事業にもメリットをもたらすことができる。

買い手企業は事業戦略の目的に合わせてM&Aを活用している。水平統合、垂直統合は、規模拡大や事業の多角化による経営の安定化など、企業の成長を図るための重要なツールになる。そして、企業の目的が実現できるか否かは、統合後に最大限のシナジー効果を創出できるかにかかっている。

会社の横(競合他社)や縦(川上・川下)を買収相手として意識してみると、企業成長の重要なヒントがみつかるかもしれない。

Takashi IKEMATSU

アメリカ留学時代,古着屋のディーラーを経験。 国内の紹介会社を経て、2008年にエーバルーンコンサルティングを設立。 主にエグゼクティブのサーチやM&A案件を担当。