Takashi IKEMATSU

会社をいくらで売りたいですか? 企業価値の算出方法

2016年8月9日、ストライプインターナショナルが全国にレディースアパレル店舗を展開する中堅アパレルのアルファベットパステルを買収すると発表した。売上1000億円を超える新興アパレル大手と中堅アパレルとのM&Aに注目が集まっており、アルファベットパステルをさらなる成長へと導くストライプインターナショナルの手腕が期待されている。

このニュースを見てふと気になったのが、アルファベットパステルの評価金額はいくらだったのか?ということだ(売却金額は不明となっている)。

会社の価値はいったいどのように算定されるのか?
自分の会社の価値はどれくらいあるのか?

これらをひも解くために、バリュエーションと呼ばれる企業や事業の価値を算出する方法を紹介しよう。

あなたの会社を一体いくらで売りたいですか?

買い手は売り手の希望金額をベースにM&Aを検討するため、経営者であればまず「いくらで会社を売りたいか」という希望金額を決める必要がある。もし、この希望金額が結果的に買い手と合致すれば、あなたが設定した希望金額のバリュエーションは正解となる。設定した希望金額が低ければ損をするし、高すぎる場合は誰からも相手にされないので、適切な価格設定をすることが重要なポイントとなる。

適切な価格設定とは?

企業価値の算定方法は専門書でもいくつか紹介されているが、中小企業で一般的によく利用されるのが時価純資産にのれん代を加えて計算する方法だ。

価格=時価純資産+のれん代(実質経常利益×3)

時価純資産:
貸借対照表に計上されている資産・負債を時価に直した際の差額のこと。。
*時価評価をする際、売掛債権の回収不能分、商品の不良在庫、固定資産の時価評価などを判断し計上すること。

のれん代:
計算方法はいくつかあるが、営業利益または経常利益の3年程度で算出されることが多い。
*のれん代は節税対策の経営者親族の役員報酬や保険料など事業と関係のない経費を足し戻すなど、合理的な実質経常利益を計算することが重要。そして、業種、業態、企業の状態によって3年分、5年分にするなどが判断される。

次に、
ファッション業界での売却事例とその評価金額を紹介する。

・2015年 マークスタイラー→中国系投資ファンドCITICキャピタル・パートナーズ 60~80億円程度
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ30HJ1_Q5A430C1TJ2000/
・2015年 バーニーズジャパン→セブン&アイホールディングズ 60億円程度
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ09ITT_Z00C15A2MM8000/
・2013年 キャン→クロスカンパニー(現ストライプインターナショナル) 約100億円 http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD110JX_R10C13A1TJ1000/
・2008年 ジルサンダー→オンワードホールディングス 約264億円 http://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-33537420080901

近年は、ファッション系ECの売却事例が多く、高い評価金額を得ている。

・2015年 ミューズコー → ミクシィ 17億円
http://mixi.co.jp/press/2015/0219/16093/
・2015年 waja → リブセンス 約4億円
http://japan.cnet.com/news/business/35062280/
・2012年 セレクトスクエア → 高島屋 約3億円
http://www.sankeibiz.jp/business/news/120626/bsd1206260504003-n1.htm
・2011年 ファッションウォーカー → ワールド 11億円http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD300FR_Q1A930C1TJ1000/

評価目的に沿った評価方法を選ぶ

企業を評価する方法は、上記の時価純資産で算出する以外にも、買収対象企業と類似したビジネスモデルや規模から算出する「類似上場会社比較法」や、評価対象企業の将来の期待される利益やキャッシュ・フローに基づいて価値を評価する「DCF法」、もしくはすべての方法を駆使して算出する方法などがある。それぞれの算出方法には特徴があり、評価目的に沿った適切な価値算出が行われる。

企業評価のものさしのひとつとして、金額として算出される企業価値にぜひ興味をもってみてみてはどうだろうか。

Takashi IKEMATSU

アメリカ留学時代,古着屋のディーラーを経験。 国内の紹介会社を経て、2008年にエーバルーンコンサルティングを設立。 主にエグゼクティブのサーチやM&A案件を担当。

日本でLVMHのようなコングロマリットは誕生するのか?

国内大手アパレル各社は苦しい状況が続いている。
LVMH、リシュモン、ケリングなどを筆頭に多くの外資系企業が日本へ進出し、競争は激しくなるばかりで、国内大手アパレル各社は解決策の案出を迫られている。現状をなんとか打破するべく、不採算ブランドの整理し、希望退職者を募って人件費を削減するなどして経営改善に取り組んでいるが、まだ明るい兆しは見えてこない。

成長戦略としてのM&Aという考え方

現在、日本における企業数は421万社だが、M&Aの年間成約実績は約3000件と言われており、成長戦略としてM&Aを取り入れる企業は限られている。ファッション業界においては、例にあげた外資系企業のようなコングロマリットは存在しておらず、ブランドのM&Aもあまり行われていない。

一方、世界に目を向けると、ファッションブランドのM&Aは重要な成長戦略のひとつとして認知され、活発に行われている。グループに所属することはブランドをさらなる成長へと押し上げる要因であると捉えられているからだ。

例えば、LVMHは2011年に「ブルガリ」、2013年に「ロロ・ピアーナ」を買収、2016年には「カルバン・クライン」や「トミーヒルフィガー」を保有するG-IIIグループへ「ダナ・キャラン」の売却合意を発表するなど、M&Aは頻繁に行われている。

日本でも、M&Aが業界を活性化させる起爆剤にならないだろうか。

コングロマリットの経営上のメリットとは

ブランドを複数抱えるコングロマリットは、ワンブランドを運営する企業に比べると、経営上で有利な点がいくつかある。

まずは、ビジネスのスケールメリットだ。ブランドの出店場所は、ブランディングの観点で重要だが、複数のブランドを抱えていることで、百貨店との出店や場所交渉がワンブランドより有利に働く。広告も同様で、全てのブランドの予算を集約することでワンブランドが持っている力以上に露出させることができる。そして管理部門として位置付けられている物流、システム、人事、経理などの機能を集約してビジネスを効率化させることでコスト削減を実現することができる。

ファッションならではのメリットとしては、コングロマリットはブランドが交わるコラボレーションを可能にさせる。ケリングに所属する「プーマ」は、同傘下の「アレクサンダー マックイーン」や「ブシュロン」と商品のコラボレーションを実現させ、ブランドが新たな消費者を獲得するシナジーを生み出している。

国内では、ストライプインターナショナルが、2009年に買収した「トム・ブラウン」と「コエ」のコラボレーションアイテムを発表するなど、コラボレーションによってさらなる認知度向上を図るといった動きもみられている。

日本版コングロマリットは誕生するのか

今後日本におけるファッション業界でもM&Aが活発になれば、ブランド支援の機会向上、業界の活性化と成長への活路を見出すことができ、LVMH、ケリング、リシュモンと同等の世界に通用する日本版コングロマリットが誕生する日も遠くはない。個人的には、ファッションのエンタメ企業を目指しているストライプインターナショナルや、2015年に上場を果たしたTOKYO BASEなどに新しいマーケットリーダーになることを期待したい。

Takashi IKEMATSU

アメリカ留学時代,古着屋のディーラーを経験。 国内の紹介会社を経て、2008年にエーバルーンコンサルティングを設立。 主にエグゼクティブのサーチやM&A案件を担当。