Takashi IKEMATSU

中小企業でもM&Aは可能なのか?買い手の注目ポイントをチェック

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テレビや新聞、ネットなどのメディアで、株式取得、子会社化、経営統合などのM&Aに関するニュースを、以前にも増して耳にすることが多くなった。目にする企業は規模が大きく知名度が高い会社が多く、M&Aは大企業同士が行うものと思われがちだが、実際は、年間M&A件数の7割は中小企業が関わっている。

M&Aは中小企業にとって疎遠なものでない。むしろどんな会社でもM&Aに関わる可能性がある。「小さな会社でも買い手がいるのか?」と半信半疑に思うかもしれないが、買い手が注目するポイントを考えて、その可能性を検証してみるとよいだろう。

財務諸表

買い手が最初にすることは、あなたの会社の経営状況を知ることだ。判断する材料として財務諸表が使われる。会社の貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書から読み解くポイントは以下の通りである。

・経常利益、純資産
健全な経営を行ってきたか?利益を出しているか?利益の蓄積をしているか?

・借入金
事業の投資に対して借入金の金額は妥当か?借入金の使い道は?借入金を含めた買収で今後の事業の利益で回収できる見通しが立つか?アイキャッチ画像を削除

・役員報酬・人件費
役員報酬の金額は経常利益の調整をする役割になっていないか?利益を出すために一時的に人件費を抑えていないか?社会保険未加入、未払残業代などのコンプライアンス違反はないか?

・株主構成
会社の株式をどの人がどの程度もっているのか?100%株を取得できるか?好ましくない株主が含まれていないか?

上記は一部であり、買い手の注目するポイントはさまざまだが、魅力的な会社と判断されるような財務諸表を準備しておく必要がある。

会社の魅力

買い手が決算書よりも注目するポイント、それはあなたの会社の強みである。技術、マーケットシェア、地域性、人材、ビジネスモデル、情報、システム、海外ビジネスなど買い手はあなたの会社の魅力に興味を持つ。

ファッション業界で具体的な例を挙げると、M&Aは下記のようなポイントが買収の決め手となっている。

• ノウハウの獲得
• 優れたデザイン力の内製化
• 売り手の主要客層の獲得
• より広範なマーケットを取り込み事業拡大

M&Aは中小企業でも盛んに行われていて、大企業に限ったことではない。M&Aによって買い手側の事業戦略が達成できるかがもっとも重要な判断基準になるが、M&Aアドバイザーなどの専門家は、会社の売上規模や知名度に関係なく、会社の財務諸表や強みをベースに考え、買い手がつく可能性があるかどうかを検討しているのだ。

Takashi IKEMATSU

アメリカ留学時代,古着屋のディーラーを経験。 国内の紹介会社を経て、2008年にエーバルーンコンサルティングを設立。 主にエグゼクティブのサーチやM&A案件を担当。

M&Aは究極の即戦力採用につながる

Marketing segmentation and leader

ファーストリテイリングは、自社のホームページでM&Aの目的を大きく2つ掲げている。
1つは、過去にセオリー、コントワ―・デ・コトニエ、J Brandsなどグローバルブランドを買収したように事業ポートフォリオを強化すること、
そしてもう1つは、海外や新しい市場でユニクロのビジネスのプラットフォームを獲得し、同時に優れた経営人材を獲得することだ。

M&Aは、シェアを拡大しノウハウを買うなど事業メリットが注目されがちだが、優秀な人材獲得につながる要素も持ち合わせている。優れた人材を獲得する方法は、中途採用やヘッドハンティングといった手法だけではないのだ。

去る人材、残る人材で処遇を決定

人材採用を目的としたM&Aを行ったケースでは、すべての従業員の雇用を保証する場合もあれば、去る者と残る者で処遇がわかれる場合もある。業務の合理化を理由に、合併時や合併作業後に去る人材、合併後も活躍を期待され残る人材などで処遇が決定されることになる。合併後の人材活用は組織の活性化にもつながるため、人材の処遇の決定はM&Aでとても重要なポイントとなる。

重要な社員の離職リスク対策

また、組織が変わって業務へのモチベーションが下がって転職したり、独立する絶好のタイミングとして捉えられたりなど、優秀な人材の流出を防ぐ対策も必要だ。
引き止めの方法として、リテンション・ボーナスと呼ばれる一定期間勤務するなどの要件を満たせば報酬を支給することで残留を促し、有能な人材の流出を防ぐ対策もある。

人材を確保する経営課題に向けたM&A

実際に、ファッション業界で優秀な人材を獲得したM&Aで、クロスカンパニー(現ストライプインターナショナル)が、宅配クリーニングのバスケットを買収した事例がある。

後日、株式会社ストライプインターナショナル代表取締役社長の石川康晴氏は対談で、「当時CTOの獲得に向けて動いていたが、ファッションとテクノロジーに強いバランスのとれた人材がおらず、ファッション好きなエンジニアを探していた。そこで目を向けたが、ファッションEC会社を立ち上げた経験があるバスケットの創業者の松村映子氏だった。バスケットを買収し、松村映子氏をCTOとして迎え入れたことでITの人材を管理・調達できる人材を獲得することができた」と語っている。(引用元:https://theflag.jp/article/80691

*石川 康晴氏
株式会社ストライプインターナショナル代表取締役社長
*松村 映子氏
バスケット株式会社 創業者 兼 代表取締役社長
株式会社ストライプインターナショナル取締役CTO 兼 Web&Technology本部本部長

M&Aは、事業を吸収合併するのみならず、事業を担う人材を採用する機会となる。重要な社員の引き止めや、活躍を促す環境を準備するなどの配慮が必要だが、企業としては成長分野での活躍が期待される中核人材を確保することができる。

究極の即戦力採用になるM&A戦略に、今後注目してみてはいかがだろうか。

Takashi IKEMATSU

アメリカ留学時代,古着屋のディーラーを経験。 国内の紹介会社を経て、2008年にエーバルーンコンサルティングを設立。 主にエグゼクティブのサーチやM&A案件を担当。